居室を変えて、生活しやすく
その人に合った居室環境の工夫
[南館3階 | 援助員:澤野清美・
伊藤尚一・石川幸男]
今回、入所時から個室を利用されている利用者様の中で様々な気分的な行動が見られ、居室環境がお一人お一人に合っていないのではないかと思われる3名の方の居室を変更させて頂きました。生活上の変化を事例から、どのようにすればより良い生活環境を提供出来るのかを考えてみました。
A様(84歳 女性) 要介護度2
- ADL :車椅子自操 意思疎通良好
- 現疾病:高血圧
- 生活歴:平成24年自宅トイレにて転倒し、右大腿骨頸部骨折され病院にて人工骨置換術を受ける。リハビリ後、在宅生活が困難となり平成24年介護老人保健施設に入所となる。
①生活しにくい点
平成25年5月29日に入所されました。トイレ使用時においての排泄行動はほぼ自立されていますが、尿漏れ等への心配からか「起こして下さい」「パッドを交換して下さい」等の訴えが多々あります。頻尿の為、夜間は長時間ぐっすり眠られない場合があり、被害妄想もあります。日によっては訴えが少ない日の場合もありますが、多い日には30分間隔でナースコールにて職員を呼ばれる状態でした。
また居室変更前は6件の車椅子からのずり落ち事故や、トイレでの転倒事故もありました。
変更前の居室の写真をご覧ください。A様はベッドの左側が(左方向に)向きにくく降りにくい様子で、ベッドとトイレの位置関係は壁を隔てて隣り合わせですが、トイレの反対側(ベッドの右側)から車椅子に移乗され、足下から迂回する形でトイレに行かれる等、居室の間取りと生活環境が合っていない様子でした。A様も生活しにくい様子で車椅子の角度を細かく何度も変え、トイレとベッドの間を移動されていました。
A様 居室変更前
※写真は、現在生活されている利用者様のものです。
②居室変更後の様子
7月22日に居室変更させて頂きました。変更後の居室の写真はこちらです。変更当日は新しい間取り(ベッドとトイレの間に壁が無く、A様自身が動き易いベッドの右側からトイレに直接移動出来る配置)に慣れておられない様子で、1時間に1回の間隔にてナースコールがありました。数日後には居室変更に関しての訴えがあり、変更時にA 様へ説明はさせて頂いていましたが「食堂近くの部屋を探して下さい」「食堂行ったら部屋が変わっている」と話されていました。
しかしその後暫くするとベッドとトイレの距離が近い為、ご自身でトイレへ行かれる事が多くなり、ナースコールの回数が明らかに減少しました。また、日によって一度もナースコールがない日も見られました。しかしトイレへ行かれる回数は、巡回時の様子や介護日誌に記録する特記事項からは減っていない様子です。
A様 居室変更後
③結果
居室変更後も頻回にトイレに行かれていますが、居室の間取りが変わったことでベッドからトイレへの移動が楽になり(今までの3分の1程距離が短くなりました)、移動時間の短縮、変更後、車椅子からのずり落ち事故が1件ありましたが以前と比較すると転倒事故等の軽減が図れたのではないかと思います。
以前は左側臥位になられることがなかった為、左側にテレビを置かせて頂き、少しでも左側臥位になるよう褥瘡防止の意味合いを含めて間取りを変更させて頂きました。
居室が変わり不穏な様子も見られましたが、時間の経過と共に慣れられた様子です。トイレへは独歩で行かれ、動線距離が従来の3分の1になり体力の消耗等による疲労感は減少し、安全度は増したと思われます。転倒リスクが減り職員の排泄介助も減った事によりご自身で出来る動作が増え、今まで以上にADLが維持しやすい環境になったと思われます。
以上の事例から、変更前より生活環境が改善されていると思われます。
「出来る事はご自身で行動をして頂く」「利用者様に対して可能な限り身体・精神的な苦痛は与えないようにする」という考えのもと利用者様に合った居室環境を考え変更させて頂きました。甲寿園の個室は一部屋ごとに間取りが異なり、その分利用者様にとっても生活しやすい居室と生活しにくい居室があります。個室より4人部屋の方が生活しやすい利用者様も当然おられます。またその反対の場合もあります。
今回の事例から利用者様の生活状況を考慮し居室を選ぶ事は、ご本人がより良い生活をいつまでも生き甲斐を持って生活していただく為に必要な支援である事が分かりました。同時に、居室変更だけでは解決出来ない問題も数多くあることを学びました。また学び得た事は、今後支援方法を考える上で全ての利用者様にも当てはまる事であり、全職員で連携しながら活かしていきたいと思います。