社会福祉法人 甲山福祉センター 特別養護老人ホーム 甲寿園 Kabutoyama Fukushi Center | Kojyuen

実践研究発表 Presentation

特養での集団活動支援目的別グループ活動を見直して

[作業療法士:小田 浩美/理学療法士:竹延 瞳]

はじめに

特別養護老人ホーム甲寿園では、リハビリ専門職(以下、セラピスト)が集団活動をフロア別とグループ別の2種類行っている。今回、グループ別の集団活動の支援内容を見直した結果、他職種の職員の集団活動やリハビリに対する意識が向上した。また、実施方法を工夫したことで利用者により合った内容となり、集団活動への参加が浸透したので報告する。

特養で働くリハビリ専門職について

特別養護老人ホーム(以下、特養)で働く作業療法士(以下、OT)、理学療法士(以下、PT)などのセラピストは少ないが少しずつ増えてきている(2005年:425名→2008年:610名 生労働省ホームページより)。少ない理由として、特養の施設基準としてセラピストの配置が決められておらず、個別機能訓練加算も12単位/日と少ないためセラピストを導入することが難しいことや、セラピスト側も特養でのリハビリについて理解出来ていない現状があることも考えられる。セラピストが介入していても、訪問リハビリやデイサービス、病院兼務の非常勤で介入している施設が多く、特養専従で介入している施設や、セラピストが集団活動を定期的に実施している施設はまだ少ないように感じられる。

施設紹介

甲寿園は、兵庫県西宮市の甲山にあり緑豊かで四季を感じることができる施設である。施設形態は従来型で、定員は160名、4つのフロアに分かれている。2011年8月現在セラピストは、常勤のOT1名、PT1名、パートのOT1名の3名である。利用者に対して、主に集団活動(体操、創作活動、書道、レクリエーション等)、個別機能訓練(関節可動域訓練、座位保持訓練等)、姿勢のケア(車椅子の調整、シーティング、ポジショニング)、クラブ活動(書道、大正琴、陶芸等)を実施している。

集団活動の内容と見直しに至った経緯

(1)フロア別の集団活動(各フロア 月に2~3回ずつ 90分間)

フロアごとに体操やレクリエーション、創作活動などを行い、どなたでも参加できるように個別で場面設定や環境を工夫している。

(2)見直し前のグループ別の集団活動(各グループ 月に1回ずつ 60分間)

フロアに関係なく5つの身体機能別にグループを設定し、各グループに合わせてプログラムを検討、実施していた。各グループの参加利用者は、あらかじめ介護職員と相談して決めている。

  • グループ(1):粗大運動
  • グループ(2):下肢の体操
  • グループ(3):体幹の柔軟性(回旋・伸展)
  • グループ(4):反射・反応、関節可動域訓練
  • グループ(5):関節可動域訓練、リラクゼーション

(3)見直しに至る経緯

平成22年3月、フロア別・グループ別の形態を開始して4年近く経過し、次年度から新たにPTが加わることをきっかけとして、それぞれの活動を通して感じてきたことをOT2名で話し合うことになった。

【1】フロア別の集団活動を実施してきて
  • 同じフロア内のなじみのある利用者間のやりとりがあるのは良い。
  • 個別で場面設定することで参加できる方が多い。
  • フロアは違うが同じような目的で関わったり、似た傾向がみられたりする方がいる。
     その方々が集まって一緒に活動できたら、お互いに刺激し合えるのではないか。

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新しいグループの様子(各グループ/月1回ずつ/60分間

(1)平行棒グループ(PT1名、OT1名)

歩行や立位に対して意欲的な方、立位保持能力の維持目的の方、少人数で行うことで取り組みやすい方が中心に集まって、少人数で実施している。全員で体操、足の運動を行った後、立位訓練や歩行訓練を順番に交代で2~3セット実施している。1対1の個別機能訓練では立位をとってもらいにくいが、他の方と一緒に参加することで立位をとって頂きやすい方もいる。歩行や立位の様子をお互いに見て応援し合い、刺激し合っている。人数が増え続けているため、順番がまわるのに時間がかかるようになってしまう傾向にあるが、対象の方の人数が多いことが分かり、何か対策ができればと考えている。

(2)足の体操グループ(PT1名、OT1~2名)

人数が多く他フロアとの交流もみられ、同フロアの方同士の意識も見られる賑やかなグループである。安全のため座っての体操をしているが、足の体操を多く取り入れており、レクリエーションでは立位をとる機会を作っている。日常は歩行しているが、運動目的で参加されている方もいる。ほとんどの方が車椅子から椅子へ移乗され、レクでは立位をとれないが移乗はできるという方もいる。

(3)柔軟体操グループ(PT1名、OT2名)

体操やレクリエーションなどを通して、主に上半身の運動をしている。玉入れでは、あまり投げることができない方には箱をすぐ目の前にセッティングしたり、声かけで高い的をねらえる方にはこまめに声かけを行ったり、目の前の的をねらってしまう方には低いカゴをなくしてその方が届く高さのカゴのみを置くなど、高さや位置を個人に合わせて設定している。視力低下のため的が見えない方には、的の方向から声をかけて投げて頂いている。風船バレーやキャッチボールも、その方に合わせて高さや距離を工夫している。

(4)ボール運動グループ(PT1名、OT2名)

1対1や少人数で、体操や関節可動域訓練をしたり、ボールや風船を使っての運動や覚醒を高めるために感覚刺激入力などを行っている。関節可動域訓練が主な対応の方でも、周囲の様子をよく見ておられ視覚で楽しまれる方も参加されている。

(5)座位保持グループ(PT1名、OT1名)

1対1での関節可動域訓練、座位保持訓練、車椅子の調整などを行っている。いつも過ごす居室やフロアとは異なるリハビリ室で、いつもと違う雰囲気を感じながら参加して頂いている。

(6)塗り絵書道グループ(OT2名)

傾斜台や筆の使用、姿勢の調整などをすることで、塗り絵や書道に取り組むことができる方を中心に集まって、少人数でゆっくり活動している。塗り絵の図案を分かりやすくしたり、塗る範囲の大きさを変えたりしている。片麻痺の方には、台紙の固定にテープ等を使用している。塗り絵がお好きな方が集まって作業されるスペースも用意している。

(7)手芸グループ(OT2名)

手作業が好きな方が集まって、作品作りをしている。これまでに手織り物や、季節の壁飾り(アジサイ、金魚、イカなど)、雛人形、編み物、ビーズのアクセサリーなどを作製した。見本を見て一人で進めていくことのできる方、ご自身で工夫される方、難しそうな印象の物は選ばれない方、切る作業が好きな方などがいるので、デザインや難易度を2・3種類用意している。

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新しいグループにしてからの変化

■利用者の変化

グループ名が具体的になったことで、予定表を見たり聞いたりして何のグループがあるか分かるようになった。平行棒グループ、手芸グループは徐々に参加人数が増えている。複数のグループをかけもちされている方も多い。

■職員の変化

「Aさん、ボール運動グループにどうですか?」「Bさん、どこかのグループに入れませんか?」「Cさんも、お試しで参加いいですか?」といった各利用者への意識がみられたり、「どんなことするの?」「今日は何かあったかな?」といったグループ活動への興味がみられたり、「Dさん、体調悪いのでお休みします」「Eさん、お風呂なので遅れます」といった連絡がこまめに入るようになった。グループ名から内容がイメージしやすくなったことで、グループへの興味・意識が向上した可能性がある。リハビリ全体への意識の向上があることも影響していると考える。グループ活動の予定を忘れることなく利用者の誘導をしてくれることが、利用者の参加率の向上につながっているのではないかと考える。

■セラピストの変化

グループ分けが明確になったことで、各グループのプログラムの充実に力を注げるようになり、利用者の参加グループへの適性も判断しやすくなった。また、職員に以前よりも参加時の様子を詳しく伝えるようになった。集団活動支援だけでなく、記録の方法や他の業務内容も効率が上がるように話し合う機会が増えた。

考察

グループの設定を見直す前から職員のリハビリ全体への意識は徐々に向上していたが、見直し後は職員のグループ活動への興味が増したことで参加利用者の増加に繋がり、また集団活動に対すること以外の相談や要望などもさらに増え、リハビリ全体への意識もこれまで以上に向上したと思われる。職員の相談や要望に対して、利用者にとってより合ったリハビリの参加方法などリハビリの視点を取り入れて話し合うことで、利用者にとって最も合う関わり方を一緒に検討していけるようになってきた。 フロア別の集団活動は、各フロアの雰囲気がでたり、軽度から重度の方まで集まってやりとりし合うという良さがあり、グループ別の集団活動には利用者もセラピストもじっくり同じ目的で取り組める良さがあり、利用者にとって楽しみや今ある機能を発揮する場としての集団活動も必要だと感じる。しかし、フロア別やグループ別は頻度が少ないため、機能維持という点では難しいのが現状である。1日24時間のうち、セラピストが利用者に関わるのはわずかであり、日常の生活の中で行っている移乗時の立位保持や食事の際の姿勢のケアなどの生活リハビリは利用者の機能維持に大きく影響している。 今後も、現状のグループ設定に固定せず新たなグループの設定も念頭に置くなど柔軟に対応して集団活動支援を継続していくとともに、生活リハビリの大切さを伝えていくことも必要ではないかと考える。

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