嚥下マッサージを取り組んでみて
おいしく 楽しく 安全に
[援助員:八杉 優香、中田 康太郎、樋口 亜美、山本 恵、安達 了一]
嚥下とは、水分や食べ物を口の中に取り込んで、咽頭から食道・胃へと送り込む動作です。これらの過程のどこかがうまくいかなくなると低栄養や脱水、肺炎のような身体へ悪影響をおよぼす症状になる事があります。また、「食べたくても食べられない」という事はとても辛い事だといえるのではないでしょうか。
私達は嚥下機能が低下している方に嚥下マッサージを実践することによって、少しでも嚥下機能の低下を防ぎ、より良く食べて頂けるようになるのではないかと思い、南館2階の利用者の中から、食事を楽しみにされており、ムセが多く、誤嚥性肺炎のリスクの高いU・Kさんを対象者に挙げ、食事を安全においしく食べて頂けるよう取り組みを開始しました。
> 事例(1)
U・K氏 (91歳 女性) 要介護度5
●既往歴
H12年、 6月 低脈拍
H12年、12月 白内障(opeせず)
H16年、 9月 左前腕骨骨折
H17年、 7月 右大腿骨骨折、左脳出血により右不全麻痺
■U・K氏の嚥下マッサージ施行前と後との比較
U・K氏の食事時、口の開けは良かったか、咽せがなかったかを食事介助を担当した職員に調査を依頼し記入してもらいました。 以下の表にまとめました。
開口、嚥下、特記事項を設け、開口、嚥下には○と△、特記事項には咽せがあったかなかったかを記録しました。食事の回数(空白は数に入れない) は32回。開口は良好。
咽せなかった回数○(スムーズに終了も入れて)は13回。咽せた回数△は19回。全体の咽せ率は60%という結果になりました。この結果をふまえて、インターネットからU・K氏に有効かつ簡単で継続しやすい内容のマッサージマニュアルを作成し、食事状況及び咽せ率に変化が見られるか調査を行いました。
■取り組み内容と取り組み後の様子
1)顔面神経と耳下腺のマッサージ
頬骨の下で、下顎のえらの部分を人差し指、中指、
薬指の3本を使って大きく円を描くようにしてマッサージします。
2)顎下唾液腺のマッサージ
下顎の縁に沿って後ろから前に、
3本指で押し上げるようにマッサージします。
3)舌の筋肉のマッサージ
舌骨の両端よりやや上を2本指ではさんで左右に押します。
4)甲状軟骨(のど仏)のマッサージ
舌骨の下にある甲状軟骨(のど仏)をはさんで
持ち上げるようにマッサージします
5)首のストレッチ
頭部を前後左右に傾けて、首の筋肉をストレッチします。さらに、首を左右にひねります。ゆっくりと行い、曲げたところでしばらく静止させます。
嚥下マッサージは1日1回、昼食時に日勤リーダーが行いました。
一ヶ所の回数は20回ぐらいを目安にして、ゆっくりおこないました。
嚥下マッサージ中、U・K氏は気持ちよさそうにされており、時折「ありがとう」と発語もみられました。
■嚥下マッサージ後の食事状況
嚥下マッサージ後のU・K氏の食事状況を表1と同様にして以下の表にまとめました。
食事の回数(空白は数に入れない)は38回。開口は良好。咽せなかった回数○(スムーズに終了も入れて)は24回。咽せた回数△は14回。全体の咽せ率は37%という結果になりました。嚥下マッサージ前と後の咽せ率を比較すると、23%の減少を認めました。
今回のU・K氏への嚥下マッサージでは、5種類のマッサージで、耳下腺、舌下腺、顎下腺を刺激し唾液の分泌を良くしたほか、口腔周囲筋(顎、頬、口唇、舌)の運動能力を向上させた為、食塊がスムーズに喉に送られ、誤嚥しにくくなった為、咽せが減ったと考えられます。
実際にU・K氏に嚥下マッサージを行ってみて、協力して下さった職員からも「嚥下マッサージをしてから咽せが減ったと思うよ」という声も聞くようになり、以前より発語も多くみられました。以上の事により、嚥下マッサージを行う事がU・K氏には効果的だという事が分かり、今後も嚥下マッサージを続けて行きたいと思います。 そして、他の利用者にもそれぞれに合った嚥下マッサージの方法を見つけていき更においしく、楽しく、安全な食事を提供していきたいと思います。
参考文献
www.ai-hosp.or.jp/sinryouka/center-riha/enge2/page1.htm
www5d.biglobe.ne.jp/~taberu/enge-kansetu.htm
http://gokkuncho.sakura.jp/
taisou120051211.html
http://www.n-soyokaze.jp/211/211goul.html