家族と援助員とのつながりのために
ショートステイにおける送迎時 添乗での取り組み
[援助員:柳田 賢二、福田 洋平、松垣 千佳子]
甲寿園ショートステイは利用定員14名と、入居者17名からなる併設型の施設となっています。これまでショートステイでの送迎には援助員の添乗は行っておらず運転手や面接を行った相談員以外は、直接利用者の家族に会う機会がほとんどありませんでした。多くの時間で介助にあたっている援助員は電話や連絡帳での繋がりが主になっており、なかなか直接家族に会う機会が持てないでいました。また、利用には利用者本人だけでなくその家族も少なからず不安を抱かれているのではないでしょうか。その為、送迎時に援助員の顔を見ることで、その不安が少しでも和らげることができ、また援助員も直接家族に会うことで、家庭での様子を聞いたり、住環境を知り、利用中の援助に繋げていければと考えました。これまで送迎の際に家族から、ベッドまでの移乗を手伝って欲しい、毎回違う運転手ではなく、同じ運転手に来てほしい、車内でも見守りをする人が居て欲しい、といった意見もあり、迎えから送りまで安心できる添乗の取り組みを行いました。
取り組みを行うにあたり、援助員一人ひとりがどのようなことを考えながら送迎の添乗を行うべきかアンケート調査を行いました。
- フロア職員も電話でお話するだけでなく家族とお会いする事により自宅での様子を直接伺うことができる。またショート利用中の様子を細かくお話しすることにより信頼関係を構築し、安心してショートステイを利用していただけるのではないか。
- 事故や体調不良が起きた場合、電話だけでなく直接会って状況説明や謝罪することができるのではないか。
- 初回利用者の方とその家族には心配や不安があると思う。その緊張を少しでも和らげることができたら良い。利用中の要望を聞いたり、利用者の生活環境を見ることができ少しでもよりよい援助に繋げられないか。
- 運転手だけでの送迎では家族が利用中の様子を聞かれても正しく返答することができない。
- 車内での安全確保を行うことで運転手が運転に集中できる。
というアンケート結果になりました。
この結果を踏まえて、添乗の際に職員に下記の事を注意してもらいました。
- 【迎え時】
- 1)挨拶、名札の装着
- 2)前回利用時と変わった様子、体調変化、家族の要望
- 3)薬等忘れ物はないか
- 【送り時】
- 1)挨拶、名札の装着
- 2)園での利用中の様子、変わったこと、気になる事
- 3)家族の今後の要望
> 事例(1)
S.M氏 女性 90歳 要介護1 杖歩行
認知症はなく杖を使用し、歩行されている。家族が就労されており、送迎時に送り出しや迎え入れができない。また、マンションの9階に居住されていることと住宅周辺事情を考え、マンションの前に駐車する事ができない。運転手一人では自宅まで迎えに行くことができず、ヘルパーを導入していただいていた。 これまでにそのことによるトラブル等はなかったが、添乗することでヘルパー導入を中止し、その代わり他のサービスを利用することができるようになる。ケアマネージャーからは「助かりました」との返事をいただく。
■今後の課題
この取り組み開始からヘルパー導入を中止したため、人員不足から添乗が行なえないといったことがないように勤務を調整する必要がある。
> 事例(2)
K.U氏 女性 90歳 要介護1 歩行車使用
初回利用時、ショートステイを利用されること自体が初めてであり、ご本人、ご家族ともに不安を抱かれている様子だったため、少しでも安心していただけるよう援助員の添乗を行う。 その際に家族が声を掛けやすい様に配慮に努めるとともに自宅での様子や最近の様子、園での過ごし方の希望を聞く。また、迎えに行った援助員が帰りの際にも添乗をすることにより、家族が知り得たかった様子、情報に的確にお答えする。
■今後の課題
取り組み時は迎えと送りで同じ援助員が添乗することができた。今後毎回行うことは困難であるができるかぎり行えるように努める。
> 事例(3)
O.K氏 男性 67歳 要介護4 歩行不可 車椅子使用
脳梗塞の為に右半身麻痺。玄関までに数段の階段と玄関に高い段差があり奥様一人で上がるのは不可能である。体格も大柄であり奥様一人でのベッド移乗は難しいため、援助員が添乗を行ない車椅子ごと自宅の中まで入り、ベッド移乗を行う。ここまでを毎回行った。奥様は「ありがとうございました」と言われる。 また、食事形態を変更したばかりで食事中や水分補給時のムセなどを気にしておられる様子。形態を刻み食に変更し、水分にトロミをつけてムセが減りましたと答えると安心された様子でした。
■今後の課題
大柄な方のベッド移乗には、どの援助員でも対応が可能とは限らない。その日の勤務者の調整を行なう必要がある。今後の体調変化に伴って奥様と情報を交換し援助に繋げていく。
> 事例(4)
M.M氏 女性 89歳 要介護4 歩行可 車椅子使用
迎えに行くと運転手だけではなかなか車に乗っていただけず困る事あった。認知症の為に車内でシートベルトはされているが、立ち上がろうとされたり、窓を叩く等の行動がみられる。運転手1名では安全確保が難しく、何度か車を停めざるを得ないことがあった。その為、同乗されている他の利用者にも迷惑をかけてしまうこととなった。 慣れた援助員が添乗することでスムーズに乗車していただき、車内での見守りができるようになった。また、運転手も運転に集中することができるようになった。
■今後の課題
援助員が添乗することで大きく改善された。しかし今後、立ち上がったり、大きな声を出す等の認知症に伴う周辺行動がどう変化していくかに注意を払う必要がある。
送迎に添乗し直接家族に会うことで得られたこと、感じたこと
- 家族との顔を合わせてのコミュニケーションがとれて良かった。事故、体調変化があった時、食事形態が合わなくなってきていることなど直接相談できてよかった。
- それぞれの家庭環境があるが、自宅での毎日の介護が改めて大変だと感じた。
- 車内でのなんでもない会話から利用者の知らない情報を引き出せた。
- ショート利用中は家族の方がひと休みでき、帰ってこられた時に笑顔で「おかえりなさい」と利用者にお声をかけている姿を見ると利用されて良かったと感じた。
- 運転手から添乗してくれて運転に集中できるから「本当に助かる」という声をもらった。
送迎に添乗することで運転手や相談員以外の援助員が家族に直接会い、挨拶を交わすことで、どのような援助員が自分の家族を援助しているか知って頂く機会がもてた。今までは前回の利用から変化した部分を知る情報源として、連絡帳が主となっていた。その為、不明な点も多くあり、電話にて再度確認を行なっていた。しかし、添乗し家族と近況を話すことで情報交換を行ないやすくなった。また、複数の援助員が家族に会うことで相談員以外の視点が入り、いろいろな方向から家族や住宅環境、自宅での様子を見ることができるようになった。その中には、自宅までに長い階段があり、下肢筋力の低下を予防する必要のある方がおられる。相談員からの歩行訓練の依頼の意味を実際に眼で見て確かめることもできた。このような相談員からの依頼に理由を付けて納得することができ、利用中の援助に繋げる事ができた。
この取り組みを通じて今まで利用者の見えなかった背景(家族の様子、住宅環境)を見ることができた。そして、今までより積極的に家族とコミュ二ケーションを取ろうとする援助員の意識の変化が起きたように思う。しかし全ての利用者の入退所における添乗を行えたわけではない。まず、初回利用の方、面接時での家族の介護力や自宅周辺環境から必要とした方、車内での見守りを必要とする方、利用中に体調不良や転倒等の事故があった方を主として取り組んだ。今後この取り組みを継続するとともに送迎時に現段階で問題なく行なっている利用者の添乗にも行っていければと考える。車内での様子を確認し、見守りを行うだけではなく普段とは違った落ち着いた会話をする機会にあて、繋げていければ良いと思う。家族からの情報の中にはヘルパー利用時、デイサービス利用時、自宅での様子とたくさんの重要な情報が集まっているため、今後できるだけ多くの家族に会えるように可能な限りの添乗を行い、繋がりを大切にしていきたい。