T さんは日中食堂のテーブルで誰とも話されず、一人で座っていることが多い方です。時折、他者の行動や言 動に対して興奮することがあり、大きな声で暴言を吐かれることがあります。また人の多い場所が苦手なことも あり、施設内の催しに参加する機会も少ない印象がありました。T さんに様々なレクリエーションに参加してい ただくことを通じて、レクリエーションの目的でもある「よりよい人間関係の構築」「新たな自分を発見する自 己啓発」に繋がっていただけるのではないかと考え、職員から積極的に参加を呼び掛けていきました。1 ヶ月の 短い期間での取り組みでしたが、その経過を報告させていただきます。
事例紹介
T さんの紹介と解決すべき課題・目標
T さん (78 歳 女性) 要介護度4
( 既往歴)
平成19 年 歩行障害
平成20 年 慢性心不全、糖尿病
平成23 年 認知症
認知症がありますが、視力、聴力共に良好で、声かけにも返答されます。また既往歴に歩行障害とありますが、 掴まり立ちや手引き歩行は可能で、支えなしでの立位もとれます。普段は穏やかな性格ですが、気に入らないこ と等があると、大きな声で暴言を吐かれることがあります。1 年前に介護者の長男が緊急入院され、T さんは当 施設に措置入居となりました。在宅生活ではサービス利用等を拒否されており、長男以外の親族も見つかってい ません。外部との関わりが少なかった為か、T さんは自分の殻に閉じこもってしまうようなところがあり、入居 当時から周りとの関わりを拒絶していました。またT さんと職員の間で、十分なコミュニケーションがとれて いなく、親族からの情報も乏しい為、本人が楽しめることもわからず、職員の中でもどこか近寄り難い印象が根 付いてしまい、結果として一人で過ごされることが多くなったように考えられます。今回はそういった背景と、 T さんの生活の質の向上を、課題と目標として取り上げさせていただきました。入所して一年が経ち、少しでは ありますが、施設の雰囲気にも慣れ、大声を出す頻度も少なくなってきています。
取り組み内容 | 結果 | |
---|---|---|
① | 簡単な洗濯物たたみ( タオル等) への参加を呼びかけ、数枚程たたんで頂くよう促しました。 | 最初はタオルたたみをお願いしても「いいわ、あっち持って行って」と拒否されていました。また職員が一緒にたたもうとしても、中々たたもうとされなかった為、少し離れたところから見てみることにすると、ゆっくり几帳面にたたみ始めていただけました。取り組みを始めてからしばらく日が経つと当たり前のように、自分からたたみ始める姿も見られました。こちらかお礼を伝えると笑顔で応答されることが増えていきました。 |
② | 集団レクリエーション等、活動への参加を呼びかけ、他利用者との関わりの機会を持っていただきました。 | 職員から誘われると「言ってみようかな」と返答がありました。歌のレクリエーションでは知っている歌を口ずさんだり、また気分が良いと、ピアノ演奏に対して、立って手拍子をされていました。 |
③ | 積極的に職員から声掛けやスキンシップをして、関わりをもちT さんの事について色々お話をいただきました。 | 肩たたきや手をつないだり、スキンシップをとりながらお話をすることは喜ばれていました。「洗濯物は干すよりたたむほうが好き」「このおやつ好きやわ」「歌は歌うより聴くほうが好き」など、その時々でお話ししていただけました。 |
④ | 施設の行事に積極的に参加して頂きました。( 喫茶会、カラオケ大会、夏祭り等) | 今まであまり参加されていなかった為か、場の雰囲気に慣れるまで落ち着かない様子でしたが、何度か参加されるうちに慣れていき、コーヒーを楽しまれたり、歌を口ずさんだりされていました。また今回の取り組みが終わってからも「私も行きたい」と自発的に参加されるようになりました。 |
全体的な結果として、非積極的ながらも全ての取り組みに参加していただけました。取り組みを行う前よりも、T さんとの会話や笑顔を見る機会が増え、また職員の知らなかった一面を見ることが出来ました。
取り組みを行っていく中で、洗濯物( タオル) たたみに関して几帳面な所があったり、レクリエーションも、
実際参加してみると楽しそうにされていたりと、今まで見ることの出来なかったT さんの性格面を知ることが出
来ました。喫茶会に自分から「私も行きたい」といった発言があったこと等から、T さんは参加することが嫌だっ
たわけではなく、職員の中でのT さんに対する「誘っても断られるだろう」「そういった場をT さんは嫌いだろう」
といった先入観で、参加するキッカケを十分に提供できていなかったように考えられました。また施設に入居し
て1 年が経っており、入居当時よりもT さんの中で気持ちにゆとりが出来ており、参加していただけたのではな
いかと考えられました。T さんの取り組みでの反応を見て、洗濯物たたみや喫茶会への参加が、少しずつ本人の
中で楽しみの一つになっていただけたのではないかと思いました。
私達はただ施設での生活のお手伝いをするだけではなく、レクリエーションを通じてよりよい生活を送ってい
ただける様、声掛けやスキンシップ等によりキッカケを作っていく必要があると思いました。特にT さんのように、
自分の殻に閉じこもってしまいがちな利用者にとっては、今回のような取り組みは必要なのではないかと考えら
れました。また日々のレクリエーションを行っていく中で、ただ身体を動かし運動をするということだけではな
く、一人一人の身体の状態や、性格面を考慮しながら、その方に合った取り組みを行っていき、肉体的・精神的
にどのような変化があるのかを観察していく必要があるということを改めて学びました。
今回、私達はT さんに対して「普段どういう想いをしながら生活をされているのか?」また「生活の中での楽
しみを持って頂きたい」というように、T さんの事をもっと知りたいという想いから、課題として挙げる事にな
りました。取り組みを行う前は、「行きません」「こういう事は、苦手だからいい」と拒否される時もありましたが、
職員や他の利用者からも「T さん一緒に行きましょう」「一緒に楽しみましょう」と誘っていただいた事で「出来
ないけど参加しようかな」「頑張ろうかな」と少しずつ積極的になっていく姿を見る事が出来ました。
取り組みを行っていく中で、ただ活動への参加を促すだけではなく、私達職員は、利用者一人一人の気持ちに
寄り添う事が大切だと思いました。また、この取り組みを通してT 氏から自発的に「私も一緒に行きたい」「連
れて行って下さい」等、自分の気持ちを相手に伝えようとされたり、他の利用者の方とコミュニケーションを図
ろうとされている姿を見る事が出来て良かったと思います。今後もT さんだけではなく、他の利用者とも気持ち
に寄り添い、生活のお手伝いをしていきたいと思います。