口腔ケアは、基本的には日々の生活において、口の中の清潔を保ち虫歯や歯周病を予防し、その他様々な雑菌を体内に取り込むのを防ぐ役割をし、歯磨きに限定されるものではないが、当フロアでは口腔ケアの月目標を決め、それに添って毎日実施しています。
ところが、要介護高齢者でセルフケアができない人については、その分を介護者が補わなければなりません。介護者側に口腔ケアの知識が少ないとやりにくかったり、難しかったり、怖かったりするものです。介護者及び利用者にとって負担にならないように、正しい口腔ケアの知識(参考文献より)を深め、今回の事例研究では3人の利用者の口腔内の問題点を取り上げ、それを改善する為歯磨きを1ヶ月かけて試行しました。
事例(1)歯肉の腫脹改善と口腔内清潔の保持
A氏 (要介護2 88歳 女性 義歯あり
残歯あるが、部分義歯と併用。
部分義歯について以前は使用していたが、外すと精神的不安が大きくなり装着したままの事が増え、結果重度の歯肉炎を発症し義歯が合わなくなり現在はしていない。
・口腔清拭時における歯肉からの出血を抑える。
・歯肉の腫脹の軽減及び残歯の虫歯予防・口腔清拭の維持。
・食後の口腔清拭の定着。
・残渣物除去はもとよりマッサージを意識したブラッシング方法を提示する。
・口腔清拭の際、声かけし職員と一緒にする事により習慣性を意識付けていく。
マッサージを意識したブラッシング方法
今まで声かけにより自己流にしていたものを、職員がブラッシング等援助する事によって初めは痛がったりして、嫌がられたが慣れるにつれ出血も無く爽快感を味わえるようになった。
事例(2)歯肉の腫脹の改善により残歯の虫歯予防・本数維持を図る
S氏 (要介護2 74歳 男性 義歯なし
自歯
食事、口腔清拭は自立されているが、認知症が進行しており口腔清拭は歯ブラシを口に入れるが磨く事は完全ではない。
・口腔清拭時における歯肉の出血を抑える。
・歯肉の腫脹の軽減。
・残歯の虫歯予防
・口腔内の清拭維持。
・残渣物除去及びマッサージを意識したブラッシング方法を提示する。
・マッサージで歯肉を丈夫にし、出血を抑え残歯を維持する。
ご自分では、力任せのみでの磨き方しか出来ないが、職員のブラッシング援助により、少しずつではあるが、出血も歯肉の腫脹も軽減されて来ている。
事例(3)口腔清拭で誤飲・誤嚥を予防する
M・K氏 (要介護4 99歳 女性 義歯なし 注入
歯は歯根が残っているのみ。
・食事は経管栄養、口腔清拭共に全介助。
・口腔内には貯痰が多く、誤飲・誤嚥しやすい。
・口腔内に手を入れている事があり不潔になりやすい。
・注入前後の口腔清拭による貯痰などの残渣物除去及び口腔内清潔の維持。
・マッサージ方法でのブラッシングを用いることで口腔内の機能を維持する。
・注入前後に湿らしたガーゼ、綿棒で口腔内残留の痰の除去。
・残渣物除去及びマッサージを意識したブラッシング方法を提示する。
・歯根をマッサージ(たんぽぽ型歯ブラシ)することで口腔内の機能を維持する。
普段から喘鳴のある方で吸引施行が頻回であった。口腔ケアを嫌がられ拒否される事も多くみられたが、今回実施したことにより以前に比べて吸引回数は減っているように思われる。。
当フロアに於いては、今までも口腔ケアは実施されており、特に歯磨きに関しては毎食事後、奨励してきました。それでも歯肉炎が発症するに至って、その実態を掴み改善への実践を試みる事が出来ました。
義歯を外さない為発症した例、自歯でも歯磨きが不完全の為発症した例、貯痰の対策例等、普段の口腔ケアにほんの少し時間をかけ、参考文献にのっていたブラッシング方法を活用することによって歯肉の腫脹や貯痰が軽減したと思います。しかし、改善は完治ではないので、今後への課題につなげるべく実践を続けていきたいと思います。
尚、介護者の知識、及び研修が役に立った事は言うまでもありません。正しい口腔ケア(歯磨き)によって、歯が健善であるという事はこれ程食事に深く関わるものだと言う事を学びました。又、利用者が健康を維持し、楽しく美味しく食事をする事が出来る為にも更に精進したいと思います。
参考文献
「介護のための口腔ケア」
菊谷武 日本歯科大学付属病院口腔介護リハビリテ―ションセンター/センター長 講談社
「介護に役に立つ口腔ケアの基本」
財団法人サンスター歯科保健振興財団編集 中央法規出版株式会社