実践研究発表/社会福祉法人甲山福祉センター 特別養護老人ホーム 甲寿園

欠食から自力摂取に戻るまで/ご飯を食べよう![援助員:川尻 彩花、高本 竜太郎]

はじめに

甲寿園は山の上に位置し、季節の移り変わりを五感で感じ取れる恵まれた環境にあります。 利用者の方々にはこの環境の中で自然を充分に感じ過して頂いています。 季節の流れと共に、旬の食材など給食課の職員も色々アイデアを巡らせて四季折々のお食事を提供できるよう日々頑張っています。 利用者の皆さんは美味しいと言って召し上がっていただいていますが、中には自力摂取が困難で介助の方も多くいらっしゃいます。 現在は自力摂取されている方でも入所時はなかなか自力・介助共に食事摂取が進まず拒食・欠食が続いていた利用者様もいらっしゃいます。 今回はその中で3名の利用者に着目し欠食が続く状態から自力摂取に至るまでの経過を事例として取り組みました。

事例の取り組み

事例(1)自力摂取への復帰

T氏(72歳・男性)平成21年4月入居 要介護5 
●既往歴 :アルツハイマー型認知症・高血圧・ヘルニア
●食事形態:主食…粥  副食…普通B

■生活歴

3姉妹の真ん中として出生。結婚歴・子供はなく妹さんと一緒に暮らしており、定年を迎えるまで、兵庫県庁に勤めておられた。趣味は茶道・華道である。

■問題点

入所当初は自力でゆっくり摂取されていました。しかし、入所後の環境の変化、又はそれ以外の精神的な変化を因としてか、傾倒・拒食・食べる手が止まるなど見られるようになり、精神科受診し内服薬調整してもらいました。 経過に伴い食事も一部介助⇒全介助と対応をその都度変更しました。その後も内服調整は続き症状に波が見られ摂取ムラも生じ始めました。

■最終目標

食事ムラの改善と共に食事以外に気が逸れることに対する適切な対応を見出す。

■取り組みと経過

内服薬調整と共に、食事は補食飲料を加えて全介助を基本とし、『食事を食べる』と言う行為を忘れないように意識しながら様子観察を続け、一皿ずつ手渡しし少しずつ自力摂取を促していきました。スムーズに摂取して頂ける日もあれば、なかなか開口されず欠食の時もありましたが、補食飲料に関してはストローを噛んだりされるものの残さずご自分で飲まれていました。 奥様と外出・外泊された際はハンバーガーをほおばって食べられていたそうです。

■結 果

その後、徐々に内服薬調整が安定していき、摂取量も安定。一皿ずつ手渡しから自力で全量摂取されるまでなりました。今では摂取量に問題は無く、綺麗に摂取出来ていることからお膳をそのまま提供し、様子観察することになりました。現在、一皿食されるたびにスプーンで食器をカタカタ叩く行為見られ、その行為が何を意味するのか様子観察中です。

■考 察

精神科処方薬の調整は難しく経過観察が重要と考えますが、今回の事例に関しては比較的スムーズに状態改善が見られました。全介助中対応時も補食飲料は自身で摂られていたことから食事への意欲は無くしてなったのではないかと考えることもできます。 今回の結果をみて、拒食と思っていたのは実は食べたくても食べられなかったのではないか…そう考えると介助ではなく自身で食べられるまでに回復できて本当に良かったと思います。

事例(2)摂取量のムラ

Y.N氏(81歳・女性)平成23年4月入居 要介護3
●既往歴 :右肩骨折、左大腿骨骨折
●食事形態:主食…ミキサー粥/副食…ミキサー

■問題点

入所時よりゆっくりでありながらも自力摂取されていました。 全量摂取もされていましたが徐々に摂取量低下みられ、6月には原因不明の熱発あり、その頃には1~2割摂取又は欠食が目立つようになっていました。 原因不明の熱で約1ヶ月検査入院。退院後の食事摂取量にもムラ見られていました。

■最終目標

ご本人に無理のない範囲での摂取量の安定

■取り組みと経過

退院後、徐々に摂取量増加ながらも長期に渡り食事摂取量にムラが見られました。気分転換も含め、外出を計画しその中で、外食のプランを加えました。外食時、一緒に行かれていた男性利用者さんがお好み焼きが食べたいとおっしゃっていたので、T氏も同じものを頼まれ綺麗に全量摂取されました。今までスプーンしか使用されていなかったのですが、この時はお箸を使って上手に食べられていました。

■結 果

その後、当時の担当職員を中心として食事の時間にしっかりと関わりを作ることで、徐々に摂取量も安定し、退院後全介助で対応していたのが、現在では自力摂取となり、摂取量も安定していきました。しかし摂取量のムラの要因として嗜好の他に原因不明の熱発に対する処方薬の副作用が関係することも否めず、様子観察継続しています。

■考 察

当初原因不明の熱とそれに対して処方された薬が自力摂取の可・不可、摂取量の増減に大きく作用していると考えられていました。しかし今回の事例で、嗜好も大きく関わっているのではないかとも考えられました。食材や味付けの好き嫌いは個々様々。摂取量に気を取られ好き嫌いに対しての配慮が出来ていたかどうかも重要になります。

事例(3)摂取拒否

Y.N氏(81歳・女性)平成23年4月入居 要介護33
●既往歴 :右肩骨折、左大腿骨骨折
●食事形態:主食…ミキサー粥/副食…ミキサー

■問題点

入所以前に利用されていた施設利用時に不穏行動見られる為、精神薬服用されていました。 その後、精神薬の副作用と見られる反応あり服用が中止となった後、施設入所となりました。 (※副作用反応として、昼夜逆転・食事摂取ムラが見られ、諸反応改善見られないまま入所) 入所当初は全介助。傾眠や拒否が頻繁に見られ、拒否がなくても開口悪く、一口毎の咀嚼の時間がかかり、摂取量は不安定なままでした。傾眠であれば全く食べられませんでした。

■最終目標

自力摂取への復帰

■取り組みと経過

嚥下は良いがゆっくりで少しため込んでから飲み込まれていたことから、覚醒時は一口毎の間隔を開け、しっかり飲み込んでいただいたのを確認して次の一口に移る様に職員間で対応統一しました。また、拒否・傾眠時は無理せず中止を含め可能な範囲で介助の対応を取っていました。 傾眠に対しても、前施設で昼夜逆転傾向が入所後も継続していた為、日中離床促し昼夜逆転解消に向けた取り組みも行いました。 その後、精神薬の残反応が徐々に軽減したのか、摂取介助も一口毎の間隔も短くなり、昼夜逆転解消の取り組みも功を奏し傾眠・拒否減少し摂取量が増え始めました。

■結 果

現在では(時折一部介助・全介助もあるが)ほぼ自力摂取できる状態まで改善しています。 摂取量もほぼ全量摂取されています。

■総 括

入所時点で精神薬副作用が残った状態だったので経過に不安がありましたが、日を追うごとに上記の「結果」にあるような変化が見られ、副作用が大きく影響しているのではないかと考えられます。 また、前施設では不穏行動見られた時や傾眠みられた時は昼夜問わずベッドに横になって頂いていたとのこと。しかし実質は事故防止と称してか、ほとんどベッド臥床されていたようで薬の副作用と昼夜逆転が重なり、日中傾眠状態が続いていたのではないかと考えられます。

まとめ

今回3つの事例を挙げましたが、どの事例も結果としては自力摂取できるまで改善が見られました。
併せて、それぞれの事例に自力摂取できなくなってしまった要因も通して見えてきました。

・良かれと思って行なった援助がその人自身で出来ることを出来なくさせてしまっている…
・(できない事)と思い込んでいたことが、実は(できる事)なのに
 援助している我々が埋もれさせてしまっていることがある…

これらは、職員が利用者様の出来ることを奪ってしまっている事になると思います。

生活する中で食事をするということは日々の楽しみでもあり、大切な事だと思います。だからこそ、食べて頂けない理由に対して単純に考えるのではなく、<なぜ食べて頂けないのだろうか?>という疑問に対してしっかりと向き合うことが大切だと改めて感じました。 今回行った主な取り組みは薬の服用後及び中止後の状態・様子観察と生活習慣の見直しとなりましが、その中で援助員が併せて行ったことはそれぞれの対応を共通した認識で毎日を積み重ねていくことでした。この取り組みの成果はフロアチームが一丸となり、共通した認識のもとで継続していく力と、利用者様の食に対する意識の変化が生んだ結果と考えます。
今回の事例研究をきっかけに、食事に対しての今後行う様々な取り組みを深いものにしていこうと思いました。

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