社会福祉法人 甲山福祉センター 特別養護老人ホーム 甲寿園 Kabutoyama Fukushi Center | Kojyuen

実践研究発表 Presentation

T さんの人との関わり

~日々のレクリエーションを通して~

[南館2 階 | 援助員 田村 暢浩、樋口 亜美、武村 広美、伊地知 純平]

はじめに

 T さんは日中食堂のテーブルで誰とも話されず、一人で座っていることが多い方です。時折、他者の行動や言動に対して興奮することがあり、大きな声で暴言を吐かれることがあります。また人の多い場所が苦手なこともあり、施設内の催しに参加する機会も少ない印象がありました。T さんに様々なレクリエーションに参加してい ただくことを通じて、レクリエーションの目的でもある「よりよい人間関係の構築」「新たな自分を発見する自己啓発」に繋がっていただけるのではないかと考え、職員から積極的に参加を呼び掛けていきました。1 ヶ月の短い期間での取り組みでしたが、その経過を報告させていただきます。

> 事例紹介

T さんの紹介と解決すべき課題・目標

T さん (78 歳 女性) 要介護度4

( 既往歴)
 平成19 年 歩行障害
 平成20 年 慢性心不全、糖尿病
 平成23 年 認知症

 認知症がありますが、視力、聴力共に良好で、声かけにも返答されます。また既往歴に歩行障害とありますが、掴まり立ちや手引き歩行は可能で、支えなしでの立位もとれます。普段は穏やかな性格ですが、気に入らないこと等があると、大きな声で暴言を吐かれることがあります。1 年前に介護者の長男が緊急入院され、T さんは当施設に措置入居となりました。在宅生活ではサービス利用等を拒否されており、長男以外の親族も見つかっていません。外部との関わりが少なかった為か、T さんは自分の殻に閉じこもってしまうようなところがあり、入居当時から周りとの関わりを拒絶していました。またT さんと職員の間で、十分なコミュニケーションがとれていなく、親族からの情報も乏しい為、本人が楽しめることもわからず、職員の中でもどこか近寄り難い印象が根付いてしまい、結果として一人で過ごされることが多くなったように考えられます。今回はそういった背景と、T さんの生活の質の向上を、課題と目標として取り上げさせていただきました。入所して一年が経ち、少しではありますが、施設の雰囲気にも慣れ、大声を出す頻度も少なくなってきています。

■T さんへの取り組み内容とその結果
取り組み内容【1】
簡単な洗濯物たたみ( タオル等) への参加を呼びかけ、数枚程たたんで頂くよう促しました。
結果【1】
最初はタオルたたみをお願いしても「いいわ、あっち持って行って」と拒否されていました。また職員が一緒にたたもうとしても、中々たたもうとされなかった為、少し離れたところから見てみることにすると、ゆっくり几帳面にたたみ始めていただけました。取り組みを始めてからしばらく日が経つと当たり前のように、自分からたたみ始める姿も見られました。こちらかお礼を伝えると笑顔で応答されることが増えていきました。
取り組み内容【2】
集団レクリエーション等、活動への参加を呼びかけ、他利用者との関わりの機会 を持っていただきました。
結果【2】
職員から誘われると「言ってみようかな」と返答がありました。歌のレクリエーションでは知っている歌を口ずさんだり、また気分が良いと、ピアノ演奏に対して、立って手拍子をされていました。
取り組み内容【3】
積極的に職員から声掛けやスキンシップをして、関わりをもちT さんの事について色々お話をいただきました。
結果【3】
肩たたきや手をつないだり、スキンシップをとりながらお話をすることは喜ばれていました。「洗濯物は干すよりたたむほうが好き」「このおやつ好きやわ」「歌は歌うより聴くほうが好き」など、その時々でお話ししていただけました。
取り組み内容【4】
施設の行事に積極的に参加して頂きました。( 喫茶会、カラオケ大会、夏祭り等)
結果【4】
今まであまり参加されていなかった為か、場の雰囲気に慣れるまで落ち着かない様子でしたが、何度か参加されるうちに慣れていき、コーヒーを楽しまれたり、歌を口ずさんだりされていました。また今回の取り組みが終わってからも「私も行きたい」と自発的に参加されるようになりました。

全体的な結果として、非積極的ながらも全ての取り組みに参加していただけました。取り組みを行う前よりも、T さんとの会話や笑顔を見る機会が増え、また職員の知らなかった一面を見ることが出来ました。

■T さんのレクリエーション日誌より
7 月8 日( 月)
AM
タオルたたみを、T さん含め5 名の利用者に行っていただく。たたんでいただく際に、お願いすると「いいわ」と断られるが、目の前に4 枚タオルを置きその場を離れると、たたみ始める。きっちりと端を合わせ、丁寧にたたまれる。たたまれたタオルをもらいに伺うと、職員に対し「また、たたむわ」と笑顔で応えて下さる。
PM
活動は職員不足の為、出来ず。AM 同様、タオルを渡すと「いいわ、あっちに持っていって」と断られる。しかし一人になると、タオルを5 枚丁寧にたたんで下さる。「タオル、いつでもたたむよ」と笑顔で応えて下さる。
7 月9 日( 火)
AM
タオルたたみを促す。テーブルにタオルを数枚置いても、変化がなかったので隣に座っておられた 利用者に促し、たたみ始めるとT さんもたたみ始める。5 〜6 枚ほど丁寧にたたんで下さる。「ありがとうございました」と職員の声掛けに「ううん。ううん」と応えて下さる。また11 時頃に、他利用者のピアノ演奏に合わせ、曲を口ずさんでおられる。
PM
あいあい喫茶に他利用者と参加される。最初は緊張されていたが、だんだんと落ち着かれ、コーヒーとホットケーキを召し上がられていた。数十名のコーラスボランティアも楽しまれていた。
7 月10 日( 水)
AM
集団リハビリに参加される。リハビリ中は積極的ではなかったが、ボールが近くに来ると返したり、手をつなぐと一緒に体操されていた。リハビリの感想を尋ねると「楽しかった」と応えてくださる。
PM
活動は実施できず。他利用者と会話するわけでもなく一人椅子に座っておられる。
7 月11 日( 木)
AM
テーブルにタオルを10 枚ほど置き、「タオルたたみをしてもらってもいいですか?」と職員が尋ねたが反応がなく、そのままその場を離れるとすぐにタオルをたたんで下さる。お礼を伝えると「うんうん」と頷かれる。
PM
活動は実施できず。
7 月12 日( 金)
AM
食堂でコーヒーを「おいしい」と言いながら、全量飲んでおられる。
PM
食堂にて他の利用者と歌のレクリエーションを行う。やや緊張気味だったが、職員が隣で一緒に歌うとキレイな歌声を聞かせて下さる。【ふるさと】の歌が好きな様子だった。その後肩もみ等スキンシップをとって過ごすと嬉しそうにされていた。
7 月13 日( 土)
AM
入浴中に「昔は髪が長かった」と教えて下さる。髪型のセットのリクエストを尋ねると「今のままで良いよ」と自分で考えながら応えてくださる。
PM
カラオケに参加される。小さな声で口ずさんでいた。
7 月16 日( 火)
PM
タオルたたみをお願いするが表情は曇っている。職員がその場を離れるとすぐに取り掛かってくださる。とても丁寧にたたんで下さり、お礼を言うと「いいよ」と笑顔で答えて下さる。洗濯について伺うと「昔から干すよりたたむことの方が好きだった」と応えて下さる。
7 月17 日( 水)
AM
5 ~6 枚タオルたたみをして下さる。「きれいにたたまれましたね。またお願いしますね」と声掛けすると「はい」と笑顔で応えられる。
PM
食堂にて過ごされる。
7 月19 日( 金)
AM
いつものようにタオルたたみをされる。
PM
同室の利用者から名前を呼ばれ、ニコニコと笑っておられる。
7 月21 日( 日)
AM
タオルたたみをお願いする。積極的ではなかったが、10 枚ほどとても丁寧にたたんで下さる。
PM
誕生日会に参加される。「歌は好きですか?」と職員の問いかけに「歌うより聴いているほうがいい」と応えて下さる。またタオルたたみも参加して下さる。
7 月23 日( 火)
AM
集団リハビリにお誘いすると、「行く」と応えて下さる。戻ってこられ感想を伺うと「見ているだけだった」と応えたが「また行きたい」とも応えて下さる。
7 月24 日( 水)
AM
テーブルにて山積みのタオルを見て、中々取り掛かろうとされず、小分けにすると丁寧に15 枚たたんで下さる。お礼を伝えるも表情は曇っている。
7 月25 日( 木)
AM
タオルたたみをお願いすると4 枚ほど丁寧にたたんで下さる。笑顔も見られる。
PM
レクリエーションで他の利用者のピアノ演奏に上機嫌で立って手をたたきながら唄っている。おやつの冷やししるこを「好きやわ~」と話される。
7 月26 日( 金)
PM
他の利用者のピアノ演奏に口ずさんでおられる。大きな声で歌ってほしいとの職員の声掛けに立って手をたたきうれしそうに歌っておられる。
7 月27 日( 土)
AM
ニッコリと笑いながら、タオルたたみを4 枚ほどして下さる。
PM
昼食時、前の席の利用者の行動に激怒され大声を出されている。
7 月28 日( 日)
AM
4 ~5 枚タオルたたみをして下さる。
PM
ホットケーキ作りに参加され、おいしそうに召し上がられていた。
7 月29 日( 金)
AM
無言でもくもくとタオルたたみを4 ~5 枚して下さる。
PM
腰が痛いとの訴えがあり、ベッドで過ごす。
7 月30 日( 火)
AM
無声掛けする前からご自分でタオルたたみをして下さる。ゆっくり4 枚たたまれる。
PM
あいあい喫茶に参加する。歌詞を見るわけでもなく歌うわけでもなく、じっと歌っている人を眺めておられる。
7 月31 日( 水)
AM
タオルたたみの声掛けに不機嫌そうな表情をされるが、職員が離れると3 ~4 枚丁寧にたたんで下さる。
PM
他の利用者がうちわを作っている様子を遠くからじっと眺めておられる。
8 月1 日( 木)
AM
ベッドで過ごされる。
8 月2 日( 金)
AM
タオルたたみを丁寧にして下さる。コーヒーをおいしそうに召し上がられる。
PM
食堂にて穏やかに過ごされる。
8 月3 日( 土)
AM
タオルたたみをお願いすると、当たり前のように無言でたたんでおられる。
PM
あいあい喫茶に参加される。カラオケでは知っている曲を口ずさんでおられる。

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考察

 取り組みを行っていく中で、洗濯物( タオル) たたみに関して几帳面な所があったり、レクリエーションも、 実際参加してみると楽しそうにされていたりと、今まで見ることの出来なかったT さんの性格面を知ることが出 来ました。喫茶会に自分から「私も行きたい」といった発言があったこと等から、T さんは参加することが嫌だっ たわけではなく、職員の中でのT さんに対する「誘っても断られるだろう」「そういった場をT さんは嫌いだろう」 といった先入観で、参加するキッカケを十分に提供できていなかったように考えられました。また施設に入居し て1 年が経っており、入居当時よりもT さんの中で気持ちにゆとりが出来ており、参加していただけたのではな いかと考えられました。T さんの取り組みでの反応を見て、洗濯物たたみや喫茶会への参加が、少しずつ本人の 中で楽しみの一つになっていただけたのではないかと思いました。
 私達はただ施設での生活のお手伝いをするだけではなく、レクリエーションを通じてよりよい生活を送ってい ただける様、声掛けやスキンシップ等によりキッカケを作っていく必要があると思いました。特にT さんのように、 自分の殻に閉じこもってしまいがちな利用者にとっては、今回のような取り組みは必要なのではないかと考えら れました。また日々のレクリエーションを行っていく中で、ただ身体を動かし運動をするということだけではな く、一人一人の身体の状態や、性格面を考慮しながら、その方に合った取り組みを行っていき、肉体的・精神的 にどのような変化があるのかを観察していく必要があるということを改めて学びました。

まとめ

今回、私達はT さんに対して「普段どういう想いをしながら生活をされているのか?」また「生活の中での楽しみを持って頂きたい」というように、T さんの事をもっと知りたいという想いから、課題として挙げる事になりました。取り組みを行う前は、「行きません」「こういう事は、苦手だからいい」と拒否される時もありましたが、 職員や他の利用者からも「T さん一緒に行きましょう」「一緒に楽しみましょう」と誘っていただいた事で「出来 ないけど参加しようかな」「頑張ろうかな」と少しずつ積極的になっていく姿を見る事が出来ました。
 取り組みを行っていく中で、ただ活動への参加を促すだけではなく、私達職員は、利用者一人一人の気持ちに 寄り添う事が大切だと思いました。また、この取り組みを通してT 氏から自発的に「私も一緒に行きたい」「連 れて行って下さい」等、自分の気持ちを相手に伝えようとされたり、他の利用者の方とコミュニケーションを図 ろうとされている姿を見る事が出来て良かったと思います。今後もT さんだけではなく、他の利用者とも気持ち に寄り添い、生活のお手伝いをしていきたいと思います。

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