実践研究発表/社会福祉法人甲山福祉センター 特別養護老人ホーム 甲寿園

小グループでの外出/ゆっくりとしたお買い物を楽しむ[援助員:松本 太郎、あ安奈、成田 かよ子]

はじめに

甲寿園デイサービスは、西宮市にある緑豊かな甲山のふもとに位置し、市内でありながら自然に囲まれたところで通常規模の一般型で定員28名、1日平均約25名で行っています。今までの外出は、北山ダムにお花見、芦有に紫陽花ドライブ、伊丹のバラ園、武庫川河川敷のコスモスといった季節を感じて頂く為の『大きな外出を全員』で行っていました。
ここ最近、利用者の人数が増え、みんなで外出すると一人一人の利用者のニーズがあまりに多くて、それに応えることができませんでした。その結果を踏まえて、今年の6月より試みに小グループでの外出で『ゆっくりとしたお買い物』という1つの形をとり、このような取り組みを始めました。

取り組みの目的(想いを叶え笑顔を引き出す)

  1. 【1】利用者とお話しする中で特に女性の方は、在宅生活の中で体が動きにくくなり、スーパーに行く機会が減り、昔のように買い物に出かけたいという声が寄せられた。
  2. 【2】季節に応じた買い物。例えば、夏のポロシャツやズボン、夏用の肌着が買いたい等、自分で服を選んで買いたい、という希望があった。
  3. 【3】家ではなかなか買い物に一緒に行く機会がなくなりつつあるので、デイサービスで行ってもらえる企画があれば本人も喜ぶであろうと家族からも希望があった。
  4. 【4】買い物に行く機会はあるが、自ら物を買いたいという楽しみを引き出すキッカケを作る。

買物の状況

(1)外出そのものを楽しまれた方

Kさん(女性)
娘さんと娘さんの夫と3人暮らし。要介護4左麻痺があり、車椅子利用、認知症はなし。外出の機会はあまりなく、自宅の玄関から道路までは階段があり、家族だけでは外出が困難な状況にある。デイサービスとショートステイとのご利用のみ。
始めは「何も買う物なんかないんだけど…私は出かけるのが好きだから、みんなと一緒に出かけたい」と職員に言われる。スーパーマルナカに着き、店の入り口にあった宝くじ売り場を目にすると「久々に買ってみようかしら!?」と宝くじを購入される。また、100円均一のお店をご存じなかったようで品物が100円で買える事に驚かれ物珍しそうに手にとって見られ、ひい孫さんにお土産をと多数購入される。Kさんは、このお買い物で「ひい孫の喜ぶ顔と宝くじの当選が楽しみだわ」と喜ばれていた。

Nさん(女性)
娘さんと娘さんの夫と3人暮らし。要支援2、認知症あり。家族での外出の機会はあるが、どこに行って来たか忘れられることもしばしばある。娘さんは「どこに行ったか本人覚えてなく忘れてしまうことが多いが、その時に本人が楽しいと思う気持ちを大事にしたいのでデイサービスでも買い物に行ってもらえるなら母の為に宜しくお願いします」と買い物外出に賛成される。本人は買い物をされている時は「これを買うとかあれを買うとか」、楽しんでおられたが買い物後の休憩で何を買われたか尋ねると「何も買ってない」と返答あり。職員が買った物を説明すると「そうなの?」と再確認される。

(2)日頃の買い物では十分でなく個別の買い物支援を必要とされる方

Mさん(女性)
息子さんと2人暮らし。要支援2膝が悪く杖歩行。認知症はない。外出する機会はほとんどなく、週2回のデイサービスのご利用のみである。
息子に「下着を買って来て」と頼むと、「女性ものの下着は買えない」と断られ、下着をもう何年も新調していないとのこと。「私は今日の買い物で自分の下着を買いたい」と言われ念願の下着を購入された。また、食品売り場でかまぼこを100円で買われ「安いのね」と驚いておられた。

Iさん(女性)
独居。認知症はなし。要支援1、認知症はない。外出する機会はたまにあるが、買い物はコープさんが来るそうでご自分でゆっくり買い物する機会はない。
「いつもコープさんが来て買ってるから買う物は特にないんだけど…」と。お店を探索するも控えめな様子。職員が何か、欲しい物があれば一緒に探しに行きますよとお誘いし、下着等を提案すると「下着欲しいんだけど、私ゆっくり見たいし、私1人だけの為に悪いからいいわ」と男性や他の方が一緒におられた事で遠慮され、結局お菓子を1つ購入されたのみで終了。まわりの方や職員に遠慮して、本当に自分が欲しい物が買えなかった。。

(3)2人暮らしの為、在宅では買い物を楽しめなかった方

Yさん(男性)
奥様と2人暮らし。要介護1軽度の左麻痺あり。認知症はなし。元気な頃は奥様とよく2人でドライブに出かけられていて、外出するのがとても大好きで、ここ最近は家と週1回のデイサービスで外に出るくらいで体調面もあまりよくなく笑顔も減った。
「何を買ったらいいか分からん。でも、お金は2~3万円持って来た」と言われ、スーパーマルナカへ着くと本が買いたいとの事で本屋へ行く。最近の話題作を探すも見つからず店員に尋ねると売り切れだと言われ残念そうにされる。結局、本屋では国語辞典と車の雑誌を2冊購入される。食料品では、桃とスイカとお菓子を沢山購入される。
最近、笑顔が減ったYさんが休憩場所で久々に楽しそうにソフトクリームを召し上がり、又買い物に行きたいと言われた。

(4)日頃、買い物に行けるがデイサービスでの買い物外出でご本人様の希望が分かった例

Mさん(男性)
奥様と2人暮らし。要介護2パーキンソン病あり。物忘れ程度。外出する機会はあるが、買い物は奥様がされる為、ご自分で何かを買うということはあまりない。
今回の買い物で何を買ったらいいのか分からず所持金が1000円だった為に欲しい物が買えなかった。「帽子が買いたいから来週も連れて行って欲しい」と言われる。帰りの送迎で奥様に今日の様子をお伝えすると「次回、主人の希望する物を一緒に買って来ます」と言われる。

まとめ

今回、利用者の想いを叶える為の『小グループでの買い物』に行き最初はみなさん「何を買ったらいいか分からない。買う物なんか何もない」と言われる方が大半だった。
しかし、買い物へ行き商品を目の前にすると自分自身で欲しいなと思う物が見つけることができ、次回も外出の機会があれば買い物に行きたいという声に変わった方が多くおられた。今回、持って来たお金が少なかったので、思った買い物ができなかったという方もおられた。男性は買い物が苦手な様子で「普段は奥さんが買い物に行っているので今回、何を買えばいいのか…言われた物なら買って帰ろうと思うが自分で何かを買うと言われてもどうしたらいいか分からない…」と悩まれる方もいたが、外でソフトクリームやたこ焼きを食べるのが楽しかったと言われる声が多かった。普段のデイサービス利用とは雰囲気も違い職員や他の利用者同士1対1でゆっくり話したりすることができ普段聞けない話しもできたので、小グループでの買い物外出はよかったのではないかと思う。
家族も外出することを了承して頂き、ご本人も行く気になっておられたが、外出する直前になり、「行かない」と本人から言われ外出をされなかった方もおられた。その方は、午後から外出されずデイーサイビスでいつものように過ごされた。後で考えると昼食後しばらくして出発前に声かけを行うべきであったのではないか…お誘いの仕方、声かけのタイミング等を考慮しなければならなかったのではないかという反省点がある。
今回は、買い物をするということにこだわったが、絶対に何かを買わなければならないということではない。ただ店内を散策するだけでも刺激や気分転換にもなったという声が多数あった事でもそれがわかる。また、商品を目にすると『あれもこれも欲しい』と思って買ってしまう方もいた。買う物がない人に関しては、休憩時に、家とデイサービス以外の場所でソフトクリームを召し上がったり、コーヒーを飲むことで楽しみを感じてもらえれば良いと思う。
この外出で、行かれた方の意見で、『洋服を買いに行きたい』、『ホームセンターに行きたい』、また『花屋に行きたい』等、さらに具体的な意見があったので、それを踏まえた上で、今後、色んな場所を紹介し、楽しんで頂く外出を計画したいと思う。

終わりに

今後、もっとご利用者様の意見と要望にお答えしつつ、時間と余裕のあるスケジュールで『小グループでの外出』を楽しんで頂きたいと思っています。今回は、買い物という意見が多かったので買い物に絞りましたが、今後は買い物にこだわらず別の場所も提供し、みんなが日頃のデイサービスとは別で個別の外出でゆっくりと過ごして頂けるような時間を提供して行きたいと考えています。また、馴染みの方だけではなく外出に行くことで普段、あまりお話しする機会がない方と新たにお話しする場を小グループでの外出で提供することで利用者同士新しい関係を作り、それによってデイサービスに来るのがより楽しみだと言って頂けるように取り組んで行きたいです。

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