実践研究発表/社会福祉法人甲山福祉センター 特別養護老人ホーム 甲寿園

くらし/[援助員:和田 昂  宮崎 慎太郎  平野 徳一  阪下 としえ]

はじめに

※写真は新たに増床された所のものです。

甲寿園は兵庫県西宮市の甲山の近くで自然豊かな場所にある特別養護老人ホームです。北館2階、3階、南館2階、3階の4フロアで構成されており、ベッド数はロング168床、ショート14床の計182床となっています。また、南館の1階ではデイサービス(28名)も行っています。
私達が所属している北館2階はショートとロングを併設しているフロアで今年4月まではロング17床、ショート14床の計31床でした。今年4月からロングが8床増床されロング25床、ショート14床の計39床となりました。
4月下旬から5月の上旬にかけて様々な方(以前より当園のショートステイを利用された方と当園ショートステイは全く利用されず入居となられた方)が8名入居されました。そこで、今回入居されている方にとって、そしてこれから先、入居される方々が入居された際にすぐに馴染めるよりよい「空間の提供」、よりよい「くらし」とはどのようにしていけば良いのかという事を考えるきっかけになりました。今回は3名の利用者の入居前(当園のショートステイを利用されている時の様子)と入居後の生活の様子に焦点を当てて考えていきたいと思います。

事例

まずは、今回焦点を当てた3名の利用者がどのような生活をされているのかという事と、個別に行った援助を紹介したいと思います。

事例(1)

Iさん (88歳 女性) 要介護度2   H24.4.20入居

Iさんは、社交的で手先が器用な方です。
ショートステイを入居前の約3年間利用され、利用時は1週間程度連続して利用していました。
入居後はショートステイ利用時に知り合った利用者が多くいた為かすぐにフロアに馴染まれています。また、居室はショートの時は多床室での利用が多かったが、現在は個室で趣味の編み物やテレビ観賞を毎日周囲への配慮を気にせずに遅くまで行える事、そして日中は日当たりのよい居室という事もあって満足されている様子です。
Iさんのケースでは居室を個室にした事や職員が過度に干渉する事なくIさん自身のペースで過ごせている事がショートステイからロング入居に変わってもすぐに自身の「くらし」を見つけることが出来たのではないかと考えられます。

事例(2)

Hさん (98歳 女性) 要介護度2   H23.9.27入居

Hさんは、物静かで不安があると歯ぎしりなどを行うなどとても繊細な方です。ショートステイを入居前の約4年間利用され、
ショートステイ利用時は前述で触れたIさんとは異なり3泊など短い期間での利用を基本としていました。
入居した当初はフロアにも馴染めず「家族に捨てられたのか?」、「もう帰りたい」という言動がよく見受けられました。入居より1~2ヶ月は頻回に訴えが続きましたが、ロングになられ日々の生活リズムも一定の中で不安も少しずつ取り除かれてきたのかフロアにも徐々に馴染めるようになり、現在では時折「帰りたい」などの言動は見られるも比較的安定して生活されています。
Hさんのケースでは訴えが頻回に見られた時にHさんの話を傾聴し不安を取り除く事を行いました。
それがHさんにとって不安を取り除く要因になったかは分かりませんが、以前より訴えは減りました。

事例(3)

Yさん (95歳 女性) 要介護度3   H24.5.17入居

Yさんは、お一人で過ごされるのが好きで芸術にとても興味を持たれている方です。Hさんと同じくショ―ト利用時は短い期間での利用が多く5月より入居。現在4ヶ月が経過しますが、フロアに馴染むという様子も見受けられず事あるごとに職員に「捨て子になったかな?帰りたい」などと訴えられています。
Yさんは娘さんをとても大事にされており、面会に来られているその間はとても落ち着かれていますが、娘さんが帰られると次第に落ち着きが無くなり、「帰りたい」などと訴えられています。
Yさんのケースでは北2はロングとショートが併設されているフロアの為ほぼ毎日帰る人(退所者)がいる事が原因でYさん自身がショートステイとロング入居の違いを理解出来ていない事が訴えの原因になっているのではと考えました。そこで、Yさんの前では帰る利用者がいる事などは言わないようにし、机にYさんの名前シールを貼り(他の入居者の方のも作成)ショートステイ利用者との違いを出してみたが、あまり効果は得られなかった。今後もYさんの不安を取り除けるように努力していきたいと思っています。

■課題の抽出

ショートステイ利用時とロング入居後の「くらし」の変化で上手くいくケースと上手くいかないケースの違いとは何か。

■考察

ロング入居前に利用者自身が入居するという理解、納得をしているかという事とフロアの雰囲気や人間関係に馴染めるかが重要になると思う。

まとめ

今回いくつかの事例を通して、様々な事が見えてきました。Iさんのように、当園のショートステイを長い日数で利用してきた事により、入居されてもフロアの一日(入退所があり、毎日雰囲気が違う)や、生活リズムも掴まれているので、すぐに環境に馴染む事も出来ているのではないかと感じました。
しかし、HさんやYさんの事例からは短い利用日数の中ではあまりフロアの一日に触れるという事もなかったと思われ、「入居」という事に対しても違和感を抱き、何故、自分は自宅に帰る事が出来ないのか?などの心の葛藤もあったのではないかと考えられます。それは、利用日数などの問題だけではなく、以前からこのフロアをショートステイで利用していたのだからロング入居になっても「大丈夫」、「すぐに馴染めるだろう」という考えが全ての利用者にとっての正解ではないという事を改めて感じる事にもなりました。

甲寿園には全部で4フロアあり、北2以外のフロアで入居されていたならば始めから穏やかに生活を送れていたのかもしれません。が、現時点では何が正しく、何が間違いなのかなどの明確な答えは見えていません。
だからこそ、利用者一人一人の個性などに最大限配慮しつつ、その方にとってよりよい空間とはどういうものかという事を様々な視点からしっかり考えていく事が大切なのかもしれません。そうする事がよりよい空間の提供、個々人の「くらし」というものに繋がるのではないかと考えます。

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社会福祉法人甲山福祉センター 特別養護老人ホーム 甲寿園

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